中国の人権派弁護士・王全璋氏について

  • 2019.08.09 Friday
  • 17:30

「劇団は今日もこむし・こむさ」その263

 

中国の経済学者や「人権派」と言われる弁護士たちが、軟禁されたり、逮捕されたりしている状況に関心を抱かざるを得ない。

自分の生き方を貫こうとすると、ある種の困難さが伴うのは日本でも同じだが、中国の場合、その困難さの度合いが全く異なる。「いのち」が関わってくるからだ。

 

王全璋(おうぜんしょう)氏の名前が頭に刻まれたのは、ある新聞記事を読んだからだった。2018年1月17日の産経新聞に、矢板明夫氏の「中国点描」というコラムが載っていた。

見出しは、“王全璋氏は今どこに 人権派弁護士拘束2年半…「生きていて」”というものだった。

 

2015年の7月から8月にかけて、中国各地の弁護士や人権活動家が200人以上一斉に拘束された事件があったという。その事件は「闇黒の木曜日」と呼ばれたそうだ。

このとき、王全璋氏(当時41歳)も当局に連行されたのだが、それから2年半が経過したというのに、氏の消息だけが全く不明なのだという。家族が面会を要請しても、弁護士が接見を申し込んでも、警察も司法も無視し続けている、……という記事だった。

 

2018年4月9日、インターネットで、朝日新聞DIGITALの記事を読んだ。(北京=延与光貞という署名があった。)

王全璋氏の妻の、李文足さん(33歳)たちが、氏の裁判が開かれないことに対して、抗議行動を起こした。北京から、王全璋氏が拘束されている天津まで、約120キロの道のりを、10日間かけて歩き通し、抗議の意思を表明しようとしたのだ。

しかし、この、歩き続けることによる抗議活動は、6日目に当局によって阻止されてしまった……、と書かれていた。

 

この、王全璋氏の妻の行動は、2018年7月22日、NHKスペシャルでも取り上げられた。

 

2018年12月27日、“中国人権派弁護士 非公開で初公判”という見出しの新聞記事が出た。(産経新聞、署名は北京=西見由章)

ついに12月26日に、天津市の第2中級人民法院(地裁)で、国家政権転覆罪に問われた王氏の初公判が開かれたのだ。ただし、「国家機密に関わるため」という理由で、審理は公開されなかった。

妻の李氏は天津市に行こうとしたが警察に阻まれ、天津の地裁に集まった支持者たちは拘束された……、と記事にあった。

 

年を越し、今年2019年1月29日、同じく「北京=西見由章」の署名記事が掲載された。

“人権派弁護士に実刑判決”という見出し。初公判から1カ月して、判決が言い渡されたのだ。懲役4年6月、政治的権利剥奪5年という、実刑判決だった。

国家政権転覆罪というが、具体的に、王氏は何をしたと、当局は言うのか?

起訴状を、王氏の関係者が公表したそうで、それによれば……

「王氏は海外の組織から資金提供を受けて人権に関する相談窓口を各地に設置したり、他の弁護士に『政府に対抗する方法』を伝えるなどしたほか、法輪功メンバーの弁護にあたって歪曲した事実をインターネット上に公表、中国の司法制度を攻撃した」ということだった。

 

2019年7月10日、……つい、ひと月前のことだ。

矢板明夫氏のコラム「中国点描」が、同じ新聞に掲載され、それを読んで、私は重い衝撃を受けた。

 

今、王全璋氏は山東省の刑務所に収監されていて、そこで6月28日、氏は4年ぶりに、家族との面会を許可されたそうだ。そのときの様子を矢板氏はこう記述している。

「その変わり果てた様子に家族は驚愕した。王氏の妻、李文足氏によれば、笑みを絶やさぬ温厚な面影はなくなり、目の前に現れた夫は無表情でロボットのようだった。『毎日の食事はおいしいです』などと、当局に渡されたとみられるメモを棒読みし、周りを気にして何かにおびえている様子だったという。

『夫は精神状態をおかしくする薬を飲まされたのだろう』と李氏は推察する。」

 

劇団こむし・こむさは今、第6回公演に向けて稽古を重ねている。

と同時に、台本の担当者でもある私は、併せて、つぎの第7回公演の構想を練ってもいる。

構想を練る中で、ふと、ジャック・ニコルソン主演の映画『カッコーの巣の上で』が心に浮かんできた。自分でも、どういう筋道で、『カッコーの巣の上で』が思い浮かんだのかハッキリとは分からなかったが、この6月、DVDを手に入れ、何十年か振りに見てみた。

 

刑務所で強制労働をさせられるのが嫌で、狂人を装って精神病院に入院してきた男を、ジャック・ニコルソンが見事に演じていた。男はワルだけれども、まことに人間臭く、生き生きとしていて愛嬌がある。だが、映画の最後、男は頭部の手術を受け、生ける屍にされてしまう。

……見た結果、お芝居の構想とは結び付かないことが分かったのだったが、『カッコーの巣の上で』の持つインパクトは、決して古びていないことを再確認することが出来た。

 

『カッコーの巣の上で』がアカデミー賞を受賞したのは1975年度のことだから、44年前の作品ということになる。

44年前にアメリカの映画で表現されたことと、同じようなことが、今、中国の刑務所の中でおこなわれている、という事実に愕然とする。

世界は部分的に少しは進歩しているのだろうけれど、これでは、全く進歩していないのと同じではないかと、悲観的な思いに陥りそうになる。

 

王全璋氏は、2015年の「闇黒の木曜日」、治安当局に連行される1週間前、両親に手紙を書いたそうだ。(矢板明夫氏の、2018年1月17日付「中国点描」)

「あなたたちの息子を信じてください。あなたたちから引き継いだ善良で誠実な生き方を私はこれまでに一度も捨てたことはありませんでした」

 

善良で誠実な生き方をしようにも、その意志を、思考を麻痺させられ、無力化させられてしまっては、もう術がない。

懲役4年6月の間に、当局は王全璋氏をどうしようとしているのか?

人間としての精神を氏から取り上げることは、それこそ犯罪にほかならない。

王全璋氏が、生きて刑務所を出てくることを祈ることしか、私には出来ないのだろうか? そう考えても、出口がなかなか見いだせない。

ローザンヌの若き「名優」たち

  • 2019.07.12 Friday
  • 16:40

「劇団は今日もこむし・こむさ」その262

 

日頃NHKに感謝することはほとんど無いが、ローザンヌ国際バレエコンクールの模様を毎年放送してくれていることには感謝している。

今年の第47回コンクールの放送は、あいにく見ることが出来なかった。(私には録画をする習慣が無いので、とっておいて後で見ることが出来ない。)……ところが、有り難いことに再放送をしてくれたので、見ることが出来た。

 

最終日の、本選。21人の若いダンサーたちによるクラシック・バレエ。コンテンポラリーは21人の中から16人のダンスが抜粋されて、放送された。

自分では踊れもしないが、会場の観客になったつもりで、見ていて、何か惹かれる要素を感じるダンサーを記憶していく。

 

古典部門では、ベルギーの男性とアメリカの女性、日本の脇塚優さんと佐々木須弥奈さんの踊りがいいと思った。

コンテンポラリーの部門では、韓国の男性とアメリカの女性(古典も良かったブラウン・マッケンジーさん)、そして脇塚優さん、中国とブラジルの男性が光っているように思えた。

例年と比べて、男性のダンサーがずいぶん多く本選に残っているように感じた。

 

第1位はやはり、ブラウン・マッケンジーさんだった。第2位はブラジルの男性で、第3位に佐々木須弥奈さん、第4位に脇塚優さんが選ばれた。

 

ローザンヌ国際バレエコンクールを見ていて、いつも思うのは、観客の反応と、審査結果に、あまりズレが感じられないということだ。

コンクールを生で見ている観客たちは、感じるままに拍手をしたり、ブラボーと声をかける。

日本のお芝居などでは、どんな演技をしたとしても、拍手したり、ひどいときにはスタンディング・オベ―ションまでしたりする。

それと違って、コンクールの観客たちは、初めて見るダンサーの踊りに対して、正直・率直な反応をする。あまり良くないと感じれば静かなままだし、自分が「いい」と思えば、誰に遠慮をするでもなく、率先して手を打ち、声を上げる。……そういうところが、とても気持ちがいい。

 

観客の反応と審査員の評価にズレがあまり無いのは、考えてみれば「当然」のことなのかもしれない。

専門的な、細かな技術の良し悪しまで、観客には分からないかもしれない。しかし、ダンサーがその肉体を使って、豊かに表現されたものは、観客にも審査員にも等しく、確実に伝わっていく。

今年のコンクールで言えば、ブラウン・マッケンジーさんのダンスがそれだった。

彼女は16歳9か月だそうだが、女優に譬えれば、その役を生ききっていた。その躰から、「思い」が放出されて、こちらに届いてきた。

 

 

ここまで書いてきて、2年前、第45回のコンクールが思い出されてきた。

この年の第1位はイタリアのミケーレ・エスポジートさん(当時17歳)が獲得した。

古典の「ラ・バヤデール」も素晴らしかったが、コンテンポラリーが圧巻だった。

彼はジョン・ノイマイヤー振付の「ニジンスキー」を踊った。

 

ロシアのバレエダンサー、ニジンスキー(1890年〜1950年)。

有名な「薔薇の精」や「牧神の午後」……。ニジンスキーが振付した、バレエにとって革新的だった「春の祭典」。

その跳躍は、空中に止まって見えるほどだったという、伝説のダンサー。しかし、後半生は精神を病み、精神病院を転々としていた。

 

ジョン・ノイマイヤーの振付は、まるでニジンスキーの生涯を4分弱に濃縮したようだった。

ジョン・ノイマイヤーの振付に応えて、ミケーレ・エスポジートはその肉体を武器に、表現しつくして見せた。

 

ミケーレ・エスポジートのニジンスキーは、全身全霊で、何かと闘っていた。

相手は神なのか、自分自身なのか、バレエそのものなのか、運命なのか、……分からないが、もがき、這いずり回り、あやつられ、抵抗していた。

ニジンスキーは精神病院で、危険なショック療法を受けたという。その体現でもあるのか、ミケーレ・エスポジートは全身を舞台にバウンドさせた。まるで誰かの大きな手が、ミケーレ・エスポジートの躰を指で摘まんでは、そこらに放りだしているかのようだった。

 

最後近くのポーズが印象的だ。ミケーレ・エスポジートは口を開き(その口腔の黒い闇)、両の掌を合わせて作った刃(に見えた)を呑み込んでいった(ように見えた)。それは自死を表わしているようにも見えたし、運命を受容せざるを得ない、断末魔の表現にも見えた。

頭と手で躰を支え、両足を宙に上げて静止したあと、ミケーレ・エスポジートの躰は「生」を失って舞台にごろんと倒れた。そして、ただの「物」になった。

 

……拍手・歓声が沸き起こり、しばらく止まなかった。

橋口洋平さんの言葉と声

  • 2019.05.20 Monday
  • 22:47

「劇団は今日もこむし・こむさ」その261

 

このブログの「その258」の最後を、今度はwacciのアコースティック編成のライブに行ってみたいと結んだ。

そんなライブを見にいけるのは、きっと遠い先のことだと思っていた。

ところが、wacciの橋口洋平さん(作詞・作曲・ボーカル)の歌を聴く機会が突然やってきた。

 

新宿ゴールデン街に、2018年1月まで「花の木」という店があった。「花の木」を45年続けてきたママが亡くなられてしまい、そのあとママのご家族のお許しをいただいて、3人の若者が「HALO」というお店をオープンさせた。その開店1周年のイベントに、橋口洋平さんがいらしたのだ。

 

場所は南青山のカフェ。「HALO」のお客さん、友人知人、若い方がたくさん集まって、活気があった。50人はゆうに越していただろう。

3組のミュージシャンと、1人のパフォーマーが出演した。

 

飲食をしたり、それぞれに歓談したりしている中で、歌をうたったり、一人芝居を演じるのは大変なことだ。

それぞれのミュージシャンやパフォーマーの歌や芝居を見にきた人ばかりではないので、歌や芝居に、その場にいる全員が集中することがない。演奏中であっても、ずっと話し声や笑い声が聞こえる。

 

ただ、ある女性のジャズ・シンガーがビリー・ジョエルの「New York State of Mind」を歌ったときは、カフェ全体が静かになった。それまでのボサノバやサンバの曲から「New York State of Mind」に移ったとたん、会場の皆に何かが伝わり、人々は会話を止めて、音楽を聴こうとしたのだった。彼女の歌の力だった。

 

最後に登場したのが橋口洋平さんだった。

彼の声は、その第一声から、その場を支配した。

「別の人の彼女になったよ」という曲がよかった。

彼が初めて、女性目線で書いた曲だそうだ。

 

若い男女の恋愛の曲、……およそ私とは関わりがない、と思って聴いていたら、不思議なことに胸に迫ってきた。

 

新しく好きになった「別の人」は立派な人らしい。

「あなたみたいに一緒にフェスで大はしゃぎとかはしないタイプだけど

余裕があって大人で本当に優しくしてくれるの」

 

しかし、この女性、本当は、フェスで大はしゃぎをしたり、映画を見て彼女よりも泣いたりする「あなた」のことがまだ好きなようなのだ……。

 

だから、自分が「別の人の彼女になった」のと同じように、あなたも早く「別の人の彼氏に」なってねと、口では言っておきながら、その本心は違うようなのだ。

 

そして歌のラストがいい。

「あなたも早くなってね別の人の彼氏に

 私が電話をしちゃう前に」

 

彼女は、今にも「あなた」に電話をしてしまいそうなほど、せっぱつまった心境にいるのだ。

その思いを隠し切れずに、最後の最後、どっとあふれ出させて終わっていく。

「好きです」「愛しています」などという言葉を使わないで、その思いをリアルに、目に見えるように描いてみせた歌詞だと思う。この女性の姿が浮かんでくる。

 

今回の、「HALO」の1周年記念のイベントでの、橋口洋平さんの貴重なライブ。時間は短かったけれど濃いものを感じた。

「別の人の彼女になったよ」を聴いて、その「言葉」(歌詞)の絶妙さを認識することが出来たし、言葉を歌として表現するときの、橋口さんの「声」の良さについても改めて感じることが出来た。もう、そこで終わりかというところで終わらずに、さらにその上の思いにまで、声を響かせながら聴衆をひっぱり上げていく強さを感じた。

 

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