「世界最前線の演劇」の成果

  • 2019.07.22 Monday
  • 16:57

「お芝居つまみ食い」その279

 

2019年7月18日〜28日

彩の国さいたま芸術劇場開館25周年記念

世界最前線の演劇 3

さいたまネクスト・シアター

作 ガンナーム・ガンナーム、翻訳 渡辺真帆、演出 眞鍋卓嗣

『朝のライラック』

彩の国さいたま芸術劇場NINAGAWA STUDIO

 

「世界最前線の演劇」の1は『ジハード』(ベルギーのイスマエル・サイディ作)、2は『第三世代』(イスラエルのヤエル・ロネン作)だった。

今回の3の『朝のライラック』は、ヨルダンのガンナーム・ガンナームの作品だ。

「世界最前線の演劇」シリーズは、3作品目にして、早くも、「成果」を生み出したように感じた。

 

パンフレットによれば、『朝のライラック』は作者のガンナーム氏が、

「中東のとある町で起きた、若い夫婦が結婚式の衣裳を身にまとい心中した事件に衝撃を受け」

書かれたものだそうだ。

なぜ「若い夫婦が結婚式の衣裳を身にまとい心中」しなければならなかったのか?

 

チラシの「STORY」によれば、こう書かれている。

「舞台は武装組織ダーイシュ(=「イスラーム国」の他称だそうです<野村>)の支配下にある、中東の架空の町テル・カマフ。

 この町に住む夫婦、ドゥハー(「朝」の意)とライラクはともに芸術教師をしている。

 学校は軍事拠点にされ、生徒たちが次々と戦闘に加わり、町が支配の闇に包まれていく中、美しいライラクを手に入れようとする軍司令官と町の長老は、それぞれに非情な選択をドゥハーとライラクに迫る。」

 

観客が入場したときに、舞台には、ひとつの部屋がすでに見えていた。

お芝居が始まると、その部屋に、ドゥハー・ライラク夫妻が、町の長老によって閉じこめられているのだということが分かってくる。

町の長老がやってきて、乱暴狼藉を働く。ドゥハーとライラクがしきりに怯え、苦しむが、その時点ではまだ私には「事の重大さ」がピンと来ないところがあった。

 

ぼやっとした感覚から、呼び覚まされたように感じたのは、武装組織ダーイシュの司令官アブー・バラ―が登場し、その演技に触れてからのことだった。

司令官アブー・バラ―を演じた役者は、そんなに上背がなかった。だが、セリフが明晰で、鋭かった。武装組織ダーイシュの、非人間的な論理を体現した存在として、そこに立っていた。

ドゥハー・ライラク夫妻の未来を抹殺する、容赦のない、宗教に裏打ちされた絶対の思想を持つ「人間」がそこに居た。

 

この時点で、演劇の対立軸が明確になった。

しかし、私が、『朝のライラック』にさらに惹きつけられ、それこそが「演劇」だと感じたのは、その少しあとのことだった。

 

司令官アブー・バラ―はドゥハー・ライラク夫妻を幽閉し、その見張りとして、1人の兵士を残して去る。

その、ダーイシュの兵士が、実はドゥハーのかつての教え子=フムードだと分かったところから、物語はグンと深いところに分け入ったように思えた。

 

両親をダーイシュに殺されたにも関わらず、今はダーイシュの兵士として生きざるを得ないでいるフムード。

ドゥハーとライラクの見張りを命じられたということは、ドゥハー・ライラクが逃亡を企てようとすれば、夫婦を銃で撃たなければならないということだ。

敵対したくない相手と、敵対しなければならない状況に置かれた者の苦悩。

ここで、『朝のライラク』は、ドゥハー・ライラク夫妻のドラマだけではなく、フムードのドラマにもなっていく。

フムードが選んだ途は……? 彼は、夫妻の頭に黒い袋をかぶせ、引っ立てていく。

 

ここで、舞台装置が転換する。

 

フムードが夫妻を連れて行ったのは、あの軍司令官アブー・バラ―が拠点にしている学校内の劇場(講堂?)だった。そこは、かつてドゥハーがフムードに演劇を教えた場所でもあった。

黒い袋をとった夫妻は驚く。なにしろ、軍事拠点の只中に連れてこられたのだから。

しかし、フムードには考えがあった。灯台もと暗し。まさか、こんな場所に潜んでいるとはダーイシュも思わない。だから、ここのほうが安全なのだと言うのだ。

フムードは夫妻と敵対する立場には立たなかった!

 

フムードは、北の方角にある重要な施設を、自爆テロで破壊し、死ぬつもりだと夫妻に打ち明ける。

そうすれば、南の方角の警備が手薄になる。だから、南に向かって逃げるようにと、夫妻に勧めるのだ。

 

夫妻はフムードが自爆テロをおこなうことに反対する。

そして、ドゥハー・ライラック夫妻が採ったのは、互いに互いの手首にナイフをあて、出血死していく途だった……。

 

 

私は、今回の公演で2人の俳優に注目した。

軍司令官を演じた堀源起と、フムードを演じた竪山隼太の2人だ。

 

堀源起の演技についてはすでに触れたが、竪山隼太の「セリフ」もいいと感じた。

『朝のライラック』はガンナーム・ガンナーム氏のオリジナルから、詩的なセリフだったのかもしれない。美しい言いまわしが日本の上演台本にもあって、役者さんによっては、そのセリフをモノにし切れない難しさがあったように、舞台を見ていて感じた。

だが、竪山隼太のセリフは、フムードの内面から発せられていて、強く惹きつけるものがあった。

 

お芝居が終わって、役者さんが舞台に並びお辞儀をした。

私は、もっと、もっと拍手をしていたかったが、役者さんは1度お辞儀をしただけで、もう出てこなかった。残念だった。

「アコちゃん」のアコーディオン

  • 2019.07.16 Tuesday
  • 14:42

「お芝居つまみ食い」その278

 

2019年7月14日

まちライブラリー@多摩Warp主催「みんなの発表会」

はなちゃんアコちゃん

ピアノとアコーディオンによる「オブリビオン(忘却)」

まちライブラリー@多摩Warp

 

「アコちゃん」は、私が教員になって、初めて勤めた中学校の生徒だった。

アコーディオンをやっていると以前から聞いていて、演奏会のお知らせも届いていたのだが、都合がつかないで、今まで1度も見に(聴きに)いけないでいた。

 

今回は、“まちライブラリー”という、本を介して人々が交流する場(個人が、そのお宅を開放して設けたコミュニティーセンター)で、昼から夜まで、1組(1人)10分ずつ、音楽を披露する「みんなの発表会」に出演する……という知らせを受けた。いい機会だと思って出掛けた。

 

私はごちゃごちゃした町で生まれて育ったせいか、「郊外」が苦手だ。「遠いところに行く」という感じが迫ってきて、不安になるのだ。

“まちライブラリー@多摩Warp”が在るのは八王子だった。

新宿の京王線の駅員さんに、どの電車に乗ればいいか教えてもらって、京王堀之内駅に着いた。駅前に交番があったので、お巡りさんに道を訊いた。

もうすぐ、家を出て2時間が経つ。もしかしたら「アコちゃん」の演奏に間に合わないかもしれない……。

 

道で人に尋ねたりして、やっと“まちライブラリー@多摩Warp”に着いた。

よかった。「アコちゃん」の出番は、次の次だった。

地下にライブの会場が出来ていた。30席くらいの椅子が並び、音響・照明の係の人もいて、演奏内容によって、照明の色を変化させたりしていた。

 

すぐに「はなちゃんアコちゃん」の番が来た。

「はなちゃん」はピアノの先生で、「アコちゃん」は「はなちゃん」から数年前にアコーディオンの演奏を勧められて始めたのだそうだ。

曲目はピアソラの「オブリビオン(忘却)」だった。

 

ピアソラといえば、私は「ブエノスアイレスの四季」が好きで、劇団こむし・こむさの第2回公演のときに「ブエノスアイレスの夏」を舞台に流してもらおうとしたことがあった。しかし、私が思い描いていた日本のある時代と、ピアソラが「ブエノスアイレスの四季」を作った時代との間にズレがある……と、音響家に指摘され、別のタンゴを流すことになった。

 

映画の挿入曲として作曲された「オブリビオン(忘却)」は、バンドネオンやトロンボーンなど、いろいろな楽器で演奏されている。ミルヴァの歌も有名だ。

「アコちゃん」の、アコーディオンによる「オブリビオン(忘却)」……、彼女はすぐに演奏を始めなかった。少し躰を揺らすようにして、音楽の世界なのか、物語(恋?)の世界なのか、充分にその世界に入り切ったところから、音を奏で始めた。

 

その数分間は、予想以上のものだった。

彼女は赤い照明の中、立って演奏をしていた。それが、一人で演じている「芝居」のように見せた。

中学校では、彼女は演劇部員だった。私は演劇部の顧問だった。中学生の「アコちゃん」の演技が甦った。演技者としても彼女は才能があった。

 

演奏が終わると、強い拍手が起こった。それは、全く当然のことだった。彼女の「オブリビオン(忘却)」は本物だったから……。

 

“まちライブラリー@多摩Warp”から帰るとき、「アコちゃん」が出口まで送ってきた。

私は、「『アコちゃん』のアコーディオンを来年の芝居に登場させたい」「その芝居のイメージはこういうもので……」と、思い浮かんだ芝居の構想をしきりに喋っていた。

彼女のアコーディオンとコラボレーションをしたい。コラボレーションをしなくては。そういう欲求を起こさせる「アコちゃん」の演奏だったのだ。

 

来た道を戻ればいいのに、気分が高揚していたのか、別の道を辿ってしまった。

その先に京王堀之内駅が現われてくるのか、心配になった。

人通りがほとんど無い。

向こうから小学校低学年くらいの男の子が歩いてきた。男の子は駅までの道を丁寧に教えてくれた。

 

 

ポーランドの俳優 ヤン・ペシェク氏の肉体

  • 2019.07.07 Sunday
  • 18:52

「お芝居つまみ食い」その277

 

2019年7月5日〜7日

シアターXプロデュース

作 ボグスワフ・シャフェル

ヤン・ペシェク一人芝居

『存在しないが存在可能な 楽器俳優のためのシナリオ』

両国シアターX(カイ)

 

「シアターXで観た一人芝居」というと、すぐに『虎のはなし』(2017年10月、原作 ダリオ・フォ)が思い浮かぶ。アフリカのマラウイの俳優、ムベネ・ムワンベネ氏の出演・構成・演出による作品で、その声・身体表現に惹きつけられ、かつ、構成・演出が見事だった。

今度の一人芝居でも、きっと何かを得られるような予感がしていた。

 

『存在しないが……』はポーランド語で上演され、字幕は無かった。だから、劇場のスタッフの方が、入場者に、「あらかじめプログラムをお読みください」と勧めておられた。

私も、ざっと目を通した。

登場人物は「教授」で、「今日の芸術」について講義をする、という設定だということが分かった。ただし、講義内容は難しいのだが、教授の行動は自由で、愉快らしい。俳優は自分の躰を楽器のようにして演じるらしい。高尚な講義内容と、自由で愉快な演技の間に生じる「落差」が、どうやら見ものであるらしかった。

 

場内の明かりが消えて、ヤン・ペシェク氏が登場した。その声を聞いて、すぐに氏が、優れた俳優さんだということが分かった。無声音のような声から、劇場中に響く声まで、自在だった。

そしてもう一つ驚いたのは、躰だった。片足で立ち、もう一方の足を後ろに高く上げても、びくともしない。上げた足の先を、ひょいと動かしたりする。高い脚立に跳び乗ったり、日本の、火消しの梯子乗りのような恰好をしたりする。

日本の高齢の俳優さんの中にも、声を維持している方はおられる。しかし、ヤン・ペシェク氏のように「動ける」俳優さんは珍しいのではないか? 氏は、いったい何歳なのか? 芝居が終わったら、もう一度プログラムを読んで、年齢を確かめたくなった。

 

題名の中に、「楽器俳優」という言葉が使われているように、氏は躰と道具(といっても複雑なものではない)を使って、さまざまな音を発生させていく。見ていると、「あんなものを、ああすると、あんな音がするのか」と、発見することが出来る。

私が心配(勝手な心配)だったのは、はじめから舞台の下手に置かれていたチェロの存在だった。

氏は、チェロにはなかなか近づいていかなかった。最後の最後で、氏はチェロを小道具として取り上げた。

私が心配していたのは、ひょっとしたら氏は、チェロを立派に、プロ並みの技で演奏するのではないか? ということだった。もし、それで芝居を終わらせてしまうとしたら、面白くないな、と思っていた。最後まで、遊んでほしかった。

私の心配は杞憂だった。氏はチェロを全く弾かなかった。氏はチェロと弦を玩具のように取り扱っただけだった。

やがて、「ありがとうございました」氏が日本語でそう言って、お芝居が終わった。

 

『存在しないが……』を観て、2つのことを感じた。

1つは役者の年齢のことだった。

ヤン・ペシェク氏は1944年生まれだった。今年75歳! 息をきらすこともなく、1時間を演じ切った。しかも、常に動き回って。それも激しく。おそらく日頃から、鍛錬をしているに違いない。

アンコールで登場し、拍手の中、去っていった。そのとき、ぴょんと、一つ跳ねるようにして、素早く歩いていった。その後ろ姿が若々しかった。

(余談。氏の頭頂部に毛髪が無いのも、心強かった。私も毛髪を気にせず、歳をとっていこうと勇気づけられた。)

 

もう1つは、言葉の問題だった。

たしかに、『存在しないが……』はポーランド語を全く解しない私のような者でも、観続けることが出来た。

しかし、『存在しないが……』を100パーセント、お芝居として味わうためには、やはりセリフの意味を理解することが必要であると感じた。

観客席の中にはポーランド語を知っている方々が居られたようだった。そういう方は、ポーランド語が分からない私などと比べて、『存在しないが……』を充分に楽しんでおられるように見えた。

「演劇」と「言語」についても、今回のお芝居は考えさせられた。

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