Kの話

  • 2015.05.19 Tuesday
  • 11:24
去年の夏のことである
神宮第二球場
Kは
打たれた投手のあとに
マウンドに立った

バックネット裏のこちらは
Kの姿をまともに見られない
横の石段に目を落とし
チラッチラッとマウンドに目をやる

高校一年で
初めて大きな舞台に立ったKは
緊張しきっている
ストライクがはいらない
打たれた!
一塁 三塁 
ピンチである

三塁走者がとび出した!
三塁手とKが走者をはさむ
三塁手がKにボールを投げる
タッチアウト!
……のはずが
Kのグローブからボールが……
追加点

Kは
その初めての大舞台で
失敗した
そして
今年
ふたたび夏の高校野球がはじまった
西東京大会
Kの通う高校はシードされ
高校二年になったKは
控えの二番手から一番手に上がった
新聞の選手名簿の中のKの名前が
大きい

Kは
中学時代
けして優等生ではなかった
ワル
と言ってよかった
しかしスポーツできたえられたKは
中学三年の春から
自分で自分を律するようになった
ときに
Kは
サムライのように見えた

以前の仲間や
ワルの先輩とのかかわりに
悩み
転校さえ考えた
うすぐらい図書室のかたすみで
Kと話し合った日々

悩みながら
Kは
誰よりも受験勉強に熱を入れた
誰よりも早く
誰よりも多く
英語のイディオムをおぼえたのも
Kである
それもこれも
めざす高校で野球をやるため
ピッチャーとして
甲子園をめざすため……
Kは高校に合格した

中学の卒業式の予行練習
「きちっとやれ!」と
クラスにハッパをかけた
そのとき
Kが言った
「先生。先生の言いたいこと分かるよ。何でも、最後まで、一生懸命やれって、言いたいんでしょ」
私が子供たちに伝えたかったその願いを
Kは代弁してくれた

七月二十日
午前九時
終業式の日に
Kの試合がある
今年は応援に行けない
終業式の列の前で
ふと私が空を見たとしたら
マウンドに立っているかもしれないKの健闘を
心のうちで叫んでいるときである

それとも
終業式のとき
私はKを忘れ
「きちっとやれ!」と
あいかわらず
子供たちに
ハッパをかけているだろうか

(1987年4月)
「気がつけば、こんな詩が」38

 

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  • 2018.09.25 Tuesday
  • 11:24
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