京からの上京「手のひらの京」

  • 2016.02.05 Friday
  • 15:08
「小説についての小説」その18

綿矢りさの小説「手のひらの京(みやこ)」(「新潮」2016年1月号)を読みました。
300枚の作品でしたが、最後まで興味を持って読むことができました。

どうして途中で飽きることがなかったのか? 3人姉妹が登場し、それぞれの視点から、その恋愛や仕事が描かれていく手法が良かったのかもしれません。しかも、話がひとところに停滞しないで、前に進んでいきますので、読み進んでいるという実感があります。
長女は、次女の職場の男性を紹介され、結婚の方向へと進んでいきます。
次女はキップのいい女性で、職場の嫌な男と別れたものの、どうやらそのきっぷの良さがあだになって、いい関係になるかと思われた次の男性に去られてしまいます。
末っ子は大学院の先生の推薦をもらって、東京のメーカーに就職できることになったのですが、娘が京都を出て、東京で暮らすことなど想定外のことだった両親に、きつく反対されます。

自分の年齢を考えて、紹介してくれた男性と会うことを決め、けっして燃え上がるような恋愛ではないものの、良い関係を築いていく長女の生き方は、理解できるものでした。
長女とは違って、やくざのような啖呵を切ってしまう次女の造形も、憎めないし、人間的な面白味、哀しみを感じます。
私が分からなかったのは、末っ子が東京に出て、働くことに対して、両親が反対する、という設定でした。

両親に反対されて、末っ子の凛は鴨川にかかる北大路橋の欄干にもたれて、思います。
”なんて小さな都だろう。まるで川に浮いていたのを手のひらでそっと掬いあげたかのような、低い山々に囲まれた私の京。古い歴史が絡みついて、時間は止まっていないのに止まっているようだ。山の向こうにまだまだ日本は続いてると知っていても、この地にいる限り実感はできない。冷たい秋風が凛のうるんだ瞳を刺激した。私はここが好きだけど、いつか出て行かなきゃならない。山の向こうにも自分の世界が見つけられると確信できないと、いつか息が詰まってしまう。”

末っ子が、かねてから就きたいと思っていた仕事に従事するため、家を出て、東京で就職するという気持ちは、よく分かります。普通の発想だと思います。
しかし、昔から、京都に住み続けてきた両親には、にわかには認められないことだったようです。
小説には、観光客の目に映る京都ではなく、住人でなくては感じられない「地元」である京都の風物などが織り込まれ、描かれています。観光地としてではなく、「地元」京都に住み慣れた人の感覚からすると、娘が、その地から離れていくことは、「普通」ではないのかもしれません。

しかし、と思ってしまいます。
昔ならいざ知らず、現在、京都と東京は、遠い場所にあるようには思えません。日帰りで会うことの出来る距離です。
また、京都というと、伝統のある町であるとともに、革新的なものを取り入れる町であるという印象があります。堅実な娘が選んだ進路に、親が反対するというパターンは、どこか古い感じがして、現代の話として、どうなのだろうかと感じました。

両親は、結局、末っ子の上京を認めることになりますが、それはそうだろうと思います。
小説の最後に、すでに末っ子の凛が上京し、暮らしているアパートの部屋で、京都からの電話を受ける場面が出てきます。その電話で、父親が前立腺癌にかかっていることが分かったということを知り、お話は終わっていきます。
京都にいる病気の親と、東京で新生活を始めたばかりの娘。2つの都市に時間的な距離があった時代には、歯がゆさや、切なさがにじみ出てきそうな状況ですが、考えてみると、特別に同情すべきことでもないように思われてきます。
父親の病気を持ってこないと、お話が終わらなかったのかもしれません。

3人姉妹のお話。姉2人の話は胸に落ちましたが、肝心の末っ子のストーリーについては、頭に疑問符が残っています。

 

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  • 2018.10.06 Saturday
  • 15:08
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    コメント
    はじめまして。
    私は凛のくだりが一番好きでした。
    最後の場面では父と距離的に離れているところだけでなく
    他の家族と違って自分だけ違うところにいるということが意味があるのではと思いました。
    京都と東京の時間的な距離はあまり関係なく、
    むしろ父親も述べていましたが
    京都にある心理的な呪縛感への取り組み方がテーマの1つだと思いました。
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