近藤瑞男氏と神澤和明氏の対談を

  • 2016.08.20 Saturday
  • 14:59

「お芝居つまみ食い」その150

 

「テアトロ」2016年9月号の特集は「今年上半期の舞台 ベストワン・ワーストワン」です。前進座の「東海道四谷怪談」(5月、国立劇場)がワーストとベスト、両方に選ばれていて、評価というものは、人によってこんなにも違うものかと驚きもし、感心もしました。

 

ワーストに選んだのは近藤瑞男氏で、その理由をこう書いています。”前進座は久しぶりの瀬川菊之丞出演で「三角屋敷」が充実したが、先代河原崎國太郎の演出を受け継ぐというだけで、今なぜ前進座がこれを演じなければならないのかという根本の問いかけが不足、および役者の力不足が充分な成果を上げられなかった原因である。” 今、何故、これを演じるのかという根本の問いかけ。なるほど、そう言われてみれば、そうも感じます。役者の力については、圧倒的ではないものの、舞台上の役者さん全員の総力で一つの芝居を創造していることが伝わってきて、私などは好感を抱きました。

 

役者について、近藤氏はさらにこう書いています。”なにしろお岩様と伊右衛門がそっくりなのだから、この劇が成り立つはずがないのである。役者中心主義を排す前進座のはずが、そうではなくなっているのではないか、と気になるのだ。” 前進座が役者中心主義を排している劇団であるとはっきり書かれているのを読んで、やはりそうなのかと思いましたし、「四谷怪談」の実際の舞台からも、そのことが分かりました。しかし、近藤氏はお岩と伊右衛門の配役が、役者中心主義になっているのではないかと指摘しています。ということは、前進座の役者中心主義を排す在り方を近藤氏は支持しているわけで、「ワースト」の評価は、その苦言、ということなのでしょう。

 

ベストワンに挙げているのは神澤和明氏です。”岩・河原崎國太郎、伊右衛門・嵐芳三郎、直助権兵衛・藤川矢之輔は、それぞれの人物に隠れている真情を引き出す。芳三郎、矢之輔の場合、彼らの資質もあって、極悪人にならない。等身大の弱い人間なので、共感を覚えた。彼らの人生を踏みつけにしたのは、時代・社会の通念であり、彼ら自身に染み付いて行動を支配している、倫理道徳というお化けである。それを告発し、人間に暖かいのが前進座歌舞伎だろう。” と書いていて、役者についての評価も近藤氏とは異なります。

 

”前進座の『四谷怪談』はケレンを見せるショーではなく、ドラマである。” とも神澤氏は述べていて、私も前進座の舞台にそれを感じたことを思い出しましたし、”昔ながらのやり方を踏襲することが良しとされる松竹歌舞伎ではなく、歌舞伎の演技スタイルを基礎にもちながら、現代の劇場にふさわしいものとして再創造してゆくことに意味がある。今回は歌舞伎のゆりかご育ちではない、第三世代の出演者だけで作り上げられたことに、劇団の強い意欲を感じた。” という文章を読むと、この辺りに、近藤氏が指摘した、今、何故、これを演じるのかという根本の問いかけがあるのかもしれないと感じました。(松竹歌舞伎については、私の中に愛憎両面があり、その魅力を否定することは出来ませんが)

 

一つの芝居について、評価が分かれることは当然あり得ることですし、こうして同じ雑誌に2つの意見が並んで発表されることに、私はわくわくしたものを感じます。意見がぶつかり合っていくことによって、深くもなるし、進みもすると思います。「テアトロ」の次号に、近藤瑞男氏と神澤和明氏の対談など、掲載されないものでしょうか? 

 

 

 

 

スポンサーサイト

  • 2019.09.18 Wednesday
  • 14:59
  • 0
    • -
    • -
    • -
    コメント
    失礼します。「テアトロ」に掲載された「ベストワン」原稿について触れていただき、ありがとうございます。劇評に対してコメントいただくことは少ないので(文句を言われることはよくあります)、お礼を申し上げます。「批評」と振りかぶっても、主観と個人の芸術観に基づくもので、必然的に偏向性がありますし、舞台を観ていない方には理解いただきにくい。できるだけ客観的に、論理的に書くことを心掛けていますが、うまくゆきません。私は本来、演出・演技指導を主たる活動にしていて、古典を演出する場合、現在の役者が今の観客にどう訴えかけるか、が気なります。情けないですが、力不足で、まだわかりません。近藤氏との対談を示唆していただきました。批評家同士の議論を積極的に行うことに意味はありますが、それぞれが依って立つ前提・演劇観が異なる場合、経験上、実りある結果はあまり出ません。ともに「正しい」ためだと思います。むしろ、そうした対立する意見を眺めて、多くの方々がそれぞれに考えを進めていただくというのが、劇評の一つの効果ではないかと、考えております。雑文、お許しください。神澤和明
    • 神澤和明
    • 2016/10/31 11:17 AM
    コメントする








        

    PR

    calendar

    S M T W T F S
    1234567
    891011121314
    15161718192021
    22232425262728
    2930     
    << September 2019 >>

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM