「ザ・空気 ver.2」の中の”空気”

  • 2018.09.07 Friday
  • 16:23

「小説についての小説」その145

 

永井愛氏の戯曲『ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ』が「悲劇喜劇」2018年9月号に載っていたので、読んだ。

 

舞台は国会記者会館の屋上。

国会議事堂を臨むことのできる場所に、記者クラブの会館があることを初めて知った。

インターネットで調べたら、記者クラブが自力で建てたわけではなくて、1969年に、衆議院の事務局が約5億6千万円かけて建設した建物なのだそうだ。土地と建物は国有で、国会記者会に所属していれば、使用料は無料ということだ。

 

登場人物5人のうち、4人が、記者クラブに所属している。全国紙の政治部記者が2人に、大手放送局の政治部記者が1人、全国紙の論説委員が1人。

この4人とは「立場」の違う登場人物が1人。……ネットテレビ局の代表の女性だ。

 

インターネットで「国会記者会館」を検索したときに、ウィキペディアに「記者クラブ非加盟記者による屋上取材の不許可問題」という記事が出ていた。

それによれば、2012年の7月、インターネットメディアがデモを取材・撮影するために、国会記者会館屋上の使用を国会記者会に求めたのだが、不許可とされたのだという。衆議院議長にも使用許可を申請したが、不許可だった。

 

そのエピソードを下敷きにしたのかどうか分からないが、『ザ・空気 ver.2』に登場するネットテレビ局の女性は、記者クラブに入っていない「立場」なので、国会記者会館を利用することが出来ず、会館の屋上にこっそりと「侵入」してくる。目的は、ウィキペディアの記事と同じく、屋上から、デモの様子を撮影するためだ。

 

登場人物の一人に作者が、

「記者会館は税金で運営されてるわけでしょう。何で記者クラブが独占してるんだって言いたい気持ちもわかりますよ。屋上ぐらい使わせてもいいのに。」

というセリフを言わせているが、なるほどそうだなと私も思う。

 

そのネットテレビ局の女性が、「侵入した」屋上で、偶然、あることを耳にする。

それは、官邸記者室の共有コピー機から、原紙を取り出すのを忘れた者がいて、政治部記者の一人がそれを手に入れたことだった。

どうということのない内容の文書であれば問題はないのだが、コピー機に残っていた1枚の文書の表題は「今日の記者会見についてのご提案」で、本文はつぎのようなものだった。

 

「今日の会見は大変にリスキーです。記者クラブの空気は、『もう総理を徹底的に叩くしかない』という方向に流れています。唯一の救いは、内閣の支持率がこれだけ落ちても、野党の支持率が上がらないこと。今回の会見さえ乗り切れば、ある種のあきらめムードとともに国民の忘却も進むでしょうから、いずれは支持率の回復も夢ではありません。以下、本日想定される質問と模範解答のQ&Aを作成いたしましたので、ご一読の上、ご活用いただければ……」

 

つまり、記者クラブに加盟している記者の誰かが、総理大臣と通じていて、記者会見の巧い乗り切り方を伝授しているということが判明したのだ。

国会記者会館という取材環境を与えられている記者クラブ。その記者クラブに居て、さらに総理大臣とつながっている記者がいるとすれば……。

政治を行う者と、政治を報道する者との関係について、『ザ・空気 ver.2』は考えさせてくれる。

 

ネットテレビ局の女性が、幕切れで言うセリフ。

「メディアをうらむな。メディアをつくれ。」

この言葉に示唆されているように、旧来からの報道の在り方を見直さなければならない秋(とき)が来ているように感じる。それはインターネットの出現によって、発信・報道する側が、一部の者に限らなくなってきたからだ。

 

ただ、『ザ・空気 ver.2』を読み進めながら、ずっと感じていたことがある。

それは、最初の、コピー機に残されていた文書の辺りから、始まった感覚だった。

文書の文面(内閣の支持率が落ちているとか、野党の支持率が上がらないといった内容)からすると、現在の内閣、現在の総理大臣が自然に思い浮かぶように書かれている。

 

ある記者が、総理大臣に記者会見の乗り切り方を提案した。ところで、「リスキー」だと言うその記者会見は、何のために開かれるのか? 具体的には分からない。

ただ、登場人物のセリフの中に、「疑惑を追及すべき」という言葉が出てくるので、ああ、長い間、国会で問題にされてきた、あの「疑惑」のことなのだろうと思う。

「総理のご意向」とか「忖度」という言葉にも、同様な効果があって、詳しく言わずとも、読者(観客)の脳裏に、あるものが浮かんでくるようになっている。

 

国会記者会館という施設の存在。そこからあぶりだされてくる、記者クラブの在り方。そのことに対する報道人の新しい動き。

作者の問題提起は具体的で、新鮮に感じられた。

ただ、現政権・現与党については、具体的な表現はなく、キーワードを使うことによって、読者(観客)に想起させる方法を採っている。私はそれに疑問を感じた。

 

きっと、現政権に対して批判的な立場・思いを抱いている人にとっては、「疑惑」「ご意向」「忖度」といったキーワードは有効にはたらくに違いない。

「ああ、あのこと!」と察知・共感して、きっと面白く見るのだろう。

 

しかし、それでいいのだろうかと、私は考える。

芝居で、現政権・現総理大臣を批判していけないとは全く思わない。

ただ、批判するのであれば、その批判を納得させるだけの論理・具体性がなければならないのではないか。

そうでないと、観客の中にあるだろう「政権批判」の空気みたいなものに、便乗することになってしまうように思う。

 

『ザ・空気 ver.2』は、現政権・現総理大臣を批判的に思っていない人には、どのように受け止められるのだろう。私は気になる。

そんな人に見てもらわなくてもいいじゃないか、という考えもあるが、私はそうは思わない。

観客が演劇を選ぶことは出来ても、演劇の方から、観客を選ぶことは出来ないと思うからだ。

 

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